長野地方裁判所飯山支部 昭和40年(ワ)1号 判決 1965年4月30日
理由
被告が原告主張の約束手形五通をその主張の日に、訴外富士宮木材有限会社に宛振出したことは当事者間に争いなく、原告が右各約束手形をその主張の日に裏書(但し、その効力は別として)譲渡を受けたこと、右各約束手形を所持し満期に支払場所に呈示したが支払を拒絶されたものであることは被告は明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。
そこで、被告の抗弁について按ずるに、本件五通の約束手形の裏書欄の訴外富士宮木材有限会社の原告に対する裏書記載部分が、単に富士宮木材有限会社と記載され、社長の印が押捺されているのみで、代表者の資格・氏名が記載されていないことは原告の明かに争わないところであるからこれを自白したものとみなす。
しかして約束手形の裏書は裏書人の署名又は記名捺印を必要とするものであることは手形法第七七条第一項、第十三条、第八二条の定めるところである。しかして会社が裏書行為をなす場合署名又は記名押印をなす者はその代表機関であつて適法な代表機関によつて署名又は記名・押印がなされたか否かがその記載のみから直ちに識別し得る様に代表機関の署名又は記名・押印のあることを必要としたものである。しかるに前記の如く訴外富士宮木材有限会社が原告に裏書譲渡した裏書人の記載としては、単に富士宮木材有限会社とのみ表示され、その名下に社長の印章が押捺されているのみでその代表者の資格・氏名が記載されていないものであるから右各約束手形の裏書行為は無効といわなければならない。そうすると原告は本件各約束手形を所持していたとしても本件各約束手形上の権利につき形式的資格があるものということはできない。
しかし、「右の資格とは、手形法上の下において所持人が裏書により権利者たるの外観を具えるときは、その実質的権利を証明しなくても手形上の権利を行使することができると共に手形債務者もかかる所持人に支払をする限り、所持人がたとえ無権利者であつても債務を免れることができるものとせられ、もつて手形取引の敏活と安全とが企図されている関係においての手形権利者たることの外観をいうのに外ならないのであるから、これなくしては手形上の権利の行使が絶対に許されないものと解すべきではない。かえつて、実質的権利者が資格を具備しない場合であつても、債務者に対し進んでその権利を証明するときは、その権利の行使はもとより適法であつて、債務者は請求者が資格を欠くことを理由としてこれが履行を拒否することは許されないものと解すべきである」(昭和三一年二月七日最高裁判所第三小法廷判決)ところ、証人戸栗彦一の証言によれば、訴外富士宮木材有限会社の代表取締役戸栗彦一は被告より本件五通の約束手形の交付を受けた後原告に割引きを依頼し、前記の如き裏書記載をなしてこれを原告に交付したものであることが認められるので、原告は本件約束手形につき実質的権利を有するものというべきである。
そうすると原告の本件各約束手形の権利の行使は適法であり、被告はこれが履行を拒否し得ないものというべきであるから、被告は原告に対し、本件各約束手形の合計金三十九万六千三百円及び内金五万三百円については満期(原告主張約束手形の1)の翌日である昭和三十八年十一月十六日より、内金五万一千円については満期(同5の)の翌日である昭和三十八年十一月二十六日より、内金五万八千円については満期(同3の)の翌日である昭和三十八年十二月十六日より、内金七万二千円については満期(同の4)の翌日である昭和三十八年十二日十九日より、内金十六万五千円については満期(同の5)の翌日である昭和三十八年十二月二十一日より完済にいたる迄手形法所定の年六分の割合による利息金を支払うべき義務があるものというべきである。